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| 緋色の刻印 第三話 |
窓を雨が打つ。 どこか憂鬱な気分になりながら、滝は用意された着替えに袖を通した。 着替えは濃紺の無地の浴衣で茶色の帯を腰に巻きつけた。 雨足はゆるまることなく降り続けている。 この雨が明日止む保障はどこにもない。 だがここの住人には歓迎されていないようだし、何よりも急く任務なのだ。 一刻も早くこの山を降りて書類を渡さねばならないというのに。 帯を締め滝はフウっと息を吐いた。 雨が止んだからといって徒歩での移動は易しい道のりではない。 助けを待つべきかと思ったが、それは約束上できないことになっていた。 これからどうしたものか。 先のことを考えれば気分が沈む。 疲れているせいだろうと思い滝はベッドに横たわった。 全身が鉛のように重い。 瞼が熱くなって、滝は眠りに誘われていくのを感じた。 トントン
ノックの音で目が覚める。
トントン
暗闇に満ちた空間で滝は月明かりを頼りに辺りを見回した。 ここは何処だ? 見覚えのない空間に一瞬戸惑う。 だがすぐに思い出し、思い体をゆっくりと起こした。 扉を開く。 そこには自分と同じ浴衣に着替えた草加が立っていた。 「眠っていたのか?」 「ああ。すまん」 明かりを持ってきた草加を部屋に入れると滝はベッドに腰を下ろした。 中途半端に眠ったせいか妙に頭が痛かった。 「食事は食べられそうなら言ってくれと言っていた」 「そうか。お前はすませたのか?」 「ああ。一度少し前に起こしにきたのだが、疲れていたようなのでな。悪いが先に頂いた」 草加はそう言うと滝の隣に腰を下ろした。 「もう少し休ませてやりたとも思ったのだが、今夜中に決めておかねばならないこともあるのでな」 草加はそう言うと足を組んで肘を置き、手のひらに顎を乗せて滝を見た。 「そうだな」 明日、雨が止んだ場合と降っていた場合における行動を決めておかねばならない。 「今、どの辺りだと思うか?」 結構、車で走ったつもりだが、悪路でスピードも出せない状況だったし、 情報を得ようにも聞ける相手は一人しかいない。 しかしその相手からは何も聞くなと言われているし……まあ道を尋ねるくらいは 良いと思うが……。 「そうだな」 草加はそう呟いて、考え込みように右の拳を顎に置いた。 「とりあえずは明日になってみないと分からないが、晴れた場合は出て行くしかないだろうな」 歩いて下山できる距離なのかどうかは分からないが、連絡を取る手段がない以上致し方ないだろう。 「そうだな」 滝の言葉にそう言って笑う。しかし草加の顔には別の何か考えているような色が窺えた。 くえない奴だと滝は思う。 草加とは学生時代からの付き合いだが、時々何を考えているのか分からない時があった。 抱き寄せて浴衣をからのぞく白い首筋に口付けて―――――。 「疲れているんじゃなかったのか」 そう言って草加は苦笑いを浮かべた。 だが拒むつもりもないようで……。 「起こしたのはお前だ」 滝は草加の耳元にそう呟いてそのまましなやかな体をベッドに押し付けた。
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