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| 緋色の刻印 第六話 |
屋敷に戻ると先ほどまで眠っていたはずの草加が勝手口の扉の前に立っていた。 腕を組み、真っ直ぐに康平と彼の後ろにいる雅行を見ている。 「どういうことだ?」 草加は滝にではなく、康平に尋ねた。 静かな声だった。 雅行が不安げな顔で康平の肩を掴んだ。その手が震えている。 康平は草加が何を言いたいのか分かっている様子だった。 「滝、西本が死んだ」 「は?」 淡々とした口調でそう言う草加に滝は何のことか理解できず眉を寄せた。 「何を言っている?」 確かに西本とは数時間前から会っていない。 だが、死んだ? 「ああ。お前が出て行った後、大きな音が聞こえてきてな。滝かと思って部屋を出て一階 に下りた。そして何気なく食堂の方に行ったんだ」 そして草加は食堂でうつ伏せに倒れている西本の姿を発見した。近づいて確かめたが、 既に息はなく、瞳孔が開いていた。 「背中から長いサバイバルナイフが胸を貫いていた」 血溜まりの中、突っ伏す西本の死に様を思い出し草加は顔を歪める。 「どういうことか説明してもらおうか?」 そしてゆっくりと胸元から銃を取り出し、草加は康平と雅行に向けた。 雅行は痛みに耐えるように顔を歪めた。そんな雅行の手を康平は力づけるように握りし める。 「とにかく中へ」 康平は向けられた銃に臆することなく、強い眼差しで二人を見据え、そう言った。 一階の応接間に通された滝はどこか落ち着きにない様子で、革張りの椅子に腰掛けた。 向かい側に康平と雅行が腰を下ろした。 雅行の顔色が悪い。 血の気の引いたような雅行の唇がカタカタと震えていた。 「飲み物でも」 康平がそう言って立ち上がろうとする。 「いや、結構」 滝は即座にそれを断り、視線で着席を促した。 「説明願おうか?」 低い声で問いかける。 何故、西本を殺したのか? そもそも自分たちを殺すつもりで招いたのか? 思えば最初から不自然なことだらけだった。人目につかない山奥でこんなに若い男が二 人、何故、身を隠すように生活しているのか? 康平は足が不自由だと思っていたが、それは演技だったようで先ほどから普通に歩いて いる。 それに……と滝は思った。 先ほど見た光景が目に焼きついている。 雅行はまるで薔薇の生気を食しているようだった。 それはまるで―――――――――。 「西本ってやつはあんた同様、約束を破った」 康平は鋭い視線を滝に向けた。 「この家を探ろうとし、金目の物を持ち去ろうとした」 「まさか、軍人が!」 滝はカッと目を見開き、腰を僅かに上げる。 日本国海軍の将校ともあろう者が略奪など考えたくない。 だが草加に手で制止され、滝はチッと舌を打ち、腰を下ろした。 「滝、残念ながらそれは事実かも知れん」 「何故だ?」 草加の言葉に滝は眉を寄せる。 「西本の死体を見たと言っただろ?奴の右手に金の女神像が握られていた」 それはただ見ていたというには不自然だったと草加は呟いた。 「言ったはずだ。部屋から出るなって。一晩、部屋で過ごして、黙って出て行ってくれれば 康平は苦々しい口調でそう言って、拳を握り締める。 「で、知られた以上、俺たちも殺すのか?」 もちろん簡単に殺されてやるつもりはない。仮にも戦闘訓練を受けている軍人だ。 滝は康平を睨みつけそう尋ねた。 すると康平は顔を歪め、瞳を伏せる。 「それはできない」 「何故だ?」 西本は殺したのだろう?と尋ねる草加に康平は唇を噛んだ。 「あんたが…雅行の血に舐めたから…できなくなったんだよ!」 康平は苦々しくそう叫び滝を指差した。 その声に雅行の体がビクンと跳ね上がる。握り合わせた手がカタカタと震えていた。 その尋常でない様子に滝は片眉を上げる。 「どう言うことだ?」 確かに雅行の血を舐めた。極少量だが、傷を消毒する為に――――――。 その直後から雅行の様子がおかしくなったのも事実だ。 「雅行は……ヴァンパイア。それも不完全なヴァンパイアだ」 康平は雅行の震える手に自分の手を重ねそう言った。その言葉に滝は一瞬何を言われたのか分からず、 ヴァンパイア? 「バカな…」 小説の中のお話でもあるまいし、そんなものが存在するとは思えない。 しかし康平に「あんたも見たはずだ」と言われ、滝の脳裏に先ほどの光景が浮かんだ。 刹那、花は生気を奪われたように枯れて散っていった。 現実離れした幻想的な様子を思い出す。 まるで夢の中にいるような気分で滝は彼に近づいた。そして、彼の指先に僅かに滴る赤い液体を口にしたのだ。 「俺もあんたと同じだ」 康平はそう言うと、どこからともなく取り出した刃渡り9センチほどの果物ナイフを取り出した。 筋からは赤い液体が溢れ零れ落ちる。 「何を!」 滝は驚き声を上げた。 しかし、康平は動じることなく、ポケットから取り出した白いハンカチで血を拭う。 次の瞬間、二人は目を見張った。 まるで手品か何かのように、ハンカチで拭われた場所から傷が消えている。 「どういうことだ?」 刹那、動機と息切れが滝を襲った。 何か悪い予感がする。 「さっき言ったように雅行はヴァンパイアだ。だから僅かでもその血を口にしたものは不老不死になる。 「それじゃ……」 草加が信じられないと唇を震わせ滝に視線を向けた。 「あんたにも俺と同じだ。だから俺はあんたを殺せない。同時にこの館から帰すこともできなくなった」 そう康平が言った瞬間、窓の外がピカリと光り、ゴロゴロと音が響く。 先ほどまで止んでいた雨が再び激しく窓を叩き始めた。
************************************************************************* お待たせしました。やっと第六話です。 もう少しで滝編は終わりです。 いや始まり(笑)章で言ったら第一章が次で終わります。(予定)
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