| 青空の賛歌 サンプル
巡洋艦、第八十疾風丸にはそんじょそこらの女では到底太刀打ちできない美形がいる。 その噂はもはや海軍では知らぬ者はいなかった。 しかし整った容姿をしているからと言って甘く見てはいけない。 華奢に見える体躯は引き締まっており、男らしい強さを見せる。 冷静かつ、沈着。 彼の作戦には無駄がなく、数々の功績を残していた。 団扇サスケ。この艦の作戦参謀である。 彼は功績を称えられ若くして大尉という称号を得ていた。 「集合!」 上官の掛け声により、船員が甲板に集結する。 ラジオにて天皇陛下からのありがたいお言葉を拝聴した後、艦長が今日の訓練について話始める。 前にずらりと並ぶ士官達は一兵士にはとても眩しい存在に映った。 中でもその視線を一身に集めている人がいる。 「では、団扇大尉。それで」 艦長が自分の隣に立つ秀麗な青年に今日の段取りを確認する。 彼は顔色一つ変えず、上官の言葉に頷いた。 そんな仕草もまた様になる。 「では、それぞれ持ち場へ急げ」 解散になると皆、急ぎ足で自分の持ち場へと向かう。 上官より先に着いていなければ厳しい叱責を受けるからだ。 「渦巻曹長!」 団扇大尉が一人の青年を呼び止める。 呼ばれた青年は足を止め、不機嫌そうに上官に顔を向けた。 「おい、また大尉と曹長喧嘩したのか?」 甲板にモップを掛けながら学徒兵の一人である少年は隣の少年に小さな声で尋ねた。 戦闘時の彼らの仕事は船に取り付けられている大砲で敵を撃つことにある。だが平常時はこうして甲板を掃除し、常に敵機がいないか探索するのが仕事だった。 その長である曹長が先ほどから腫れた頬を押さえてブスくれているのを視界の隅に見て少年達はボソボゾといらぬ詮索を始めた。 この船に乗って彼らがまず驚いたのは作戦参謀である団扇大尉の美しさだ。 黒い瞳に白い肌。海の男とは思えないような細身の体つき。いずれもここにいることが不思議なほどだった。 別に鍛えていないわけではない。 主な仕事は頭脳労働だが、時々、一般兵に混じって鍛錬をしているのを見かける。 しかし元々筋肉のつきにくい体質なのだろう。 見た目ほど華奢ではないが、それでも他の士官と比べると十分細い。 白い肌も見事なまでに日を跳ね返し、浅黒い男達の中にあって、その白さは際立っていた。 本人にそのことを気にしているようだが、この男ばかりの閉鎖された空間で毎日大尉の顔を拝むことができる朝礼は至福のひと時である。 同じ艦の中にいても士官とそれ以下では寝食の場所も異なれば待遇も全く違う。 船の中には見えない線が引かれていた。 その向こう側の人。高嶺の花。 直属の部下でもないかぎり、まじまじと姿を見ることができるのは朝礼だけなのだ。そのおかげか、寝坊して遅刻など、朝礼を欠席するものは皆無に近く、どの艦よりも優秀だと言われている。 しかし、皆が団扇大尉に憧憬の眼差しを向けているというのに、全く解さないマイペースな男が一人。 渦巻ナルト曹長である。 大らかで明るい彼は大尉とは別な意味で人気がある。 特に学徒兵からはその面倒見のよさで絶大な人気を誇っていた。 人当たりも良く、時に厳しく、でも優しい。 まるで太陽のようだと誰もが言う。 そんな渦巻曹長が唯一牙を向く相手が団扇大尉である。 同じ年だということもあるのかもしれない。 片やエリートコースまっしぐらの尉官。片や叩き上げの曹長では仕方ないのかもしれない。 それにクールビューティーな団扇大尉に比べ、渦巻曹長は思ったことはすぐに口にしてしまうタイプである。口は災いの元というが彼の場合はまさにそれだろう。 いつも一言多く、誰に対しても冷静な物言いを崩さない団扇大尉と事あるごとに揉めていた。 だが、疑問なのは団扇大尉が渦巻曹長にだけはその冷静さを崩し熱い態度を示す。それにますます曹長が怒り、喧嘩に発展するのだ。 大尉ほどの身分ならばただの曹長くらいその権力で押さえつけることなど容易いだろうに……。 大抵はくだらない口喧嘩だが、時々手が出るから見ている方もハラハラしてしまう。 もちろん下士官が上官に手を上げるなんてもっての他だ。 今のところ独房くらいで済んでいるが、その内左遷にでもなるのではないだろうかと曹長を支持する部下達は気が気でない。 「で、今日はなんだったんだ」 渦巻組と呼ばれる彼の部下の中で一番最年少である猿飛木葉丸が人懐っこい笑みを浮かべて尋ねた。この弟分のような少年をナルトはとても気にいっていた。 「ああ…それな……」 子供のように口を尖らせて柔らかな髪を豪快に掻き毟る。ナルトの声に反応して部下達が集まって来た。 興味津々に耳を傾ける。 今日は昨日の訓練の結果についてだったらしい。 「……ま、たいしたことじゃないってばよ。でもあんまり良くなかったからな……でもそれにしたってあんな言い方……」 ブツブツと呟きやきながらナルトは腕を組む。 壁に背を預け、自分の世界に入ってしまったナルトに部下達はやれやれと呆れたように息を吐いて周囲に散っていった。いつまでもそこにいて八つ当たりをされても適わない。 訓練のことと言うなら、自分達にも関係がないわけではないのだ。 飛び火しないうちに散った部下に、ナルトは気づかない。 「こうなったらあと五分はタイムを縮めるぞ!」 そう叫んだ時にはナルトの周りにも誰もいなくなっていた。 「あ、あいつら!」 甲板にナルトの声が響き渡たる。 愛すべき曹長の喚き声を聞きながら部下達は笑を漏らし、各々の担当場所へと収まった。
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