| SUGAR |
|
白く輝く細かい粒がサラサラと落ちていく。 一週間、待ちわびた週末。 いつもなら三人で一緒に過ごす週末だが、今日は角松が先輩に誘われ出かけた為、朝から不在であった。 少し寂しい週末。 だが、同時に今を逃しては他に期はなく……。 菊池は意を決して、尾栗を下宿の近くにあるカフェに誘った。 ここのコーヒーは中々いける。軽食もまあまあで、ちょっと小腹が空いた時など、三人はよくここのお世話になっている。 「なあ…」 菊池の手が再び伸ばされたのに、尾栗が見かねて声を掛けた。 「もうそん位にしとけよ」 いくら何でもそれはないだろうと、少し青ざめた顔で尾栗は菊池の手の中のグラスを見つめる。 「何個入れた?」 「三本かな…」 菊池の綺麗な手がステッキ状になったそれをもう一本指で掴む。 「これで四本め」 「もうよせ」 尾栗はすかさず待ったをかけた。 「でも洋介はいつも五本は確実に入れているし……」 「それはあいつがおかしいんだ」 「でも…」 菊池は尾栗の言葉に口ごもると俯いて、手にそれを持ったまま、カップの中の琥珀色の液体を見つめた。 とって愛ゆえとはいえ、その未知なる物体を飲むことは過酷な試練であった。 「なあ…」 カップに次の砂糖を注ぎ込むことに迷っている菊池を見かねて尾栗が呟く。 「もうやめようぜ」 「そんなわけには…いかない…そうだ、いかないんだ!」 菊池は決意を固めるようにそう呟くと、思いきって四つ目のそれをコーヒーに注いだ。 好きな人と同じものを飲みたいという男心というのは分からなくはないが……と思いつつ尾栗は菊池が更にもう 一本注いだのを見て、自分は絶対真似できないと思った。 角松ほどではないが、比較的甘いもの好きの尾栗でも流石にそれを飲むことは不可能だと毎回、角松のコーヒ ーを見て思う。 いや、これはきっとまだマシだ。 普通のコーヒーに砂糖をドカ入れしただけのものなのだから。 「これが飲めなくてはあれはもっと飲めん」 菊池は決意したようにカップを口にあてた。 「うーん、それはそうかも……」 下宿の冷蔵庫に入れられた角松特製コーヒーを思い出し、尾栗も確かにと頷いた。 角松に薦められ口にしたそれは想像を絶する甘さだった。 甘いだけじゃない。 これはコーヒーなのか?と疑いたくなるほど原型を留めていないその飲み物を尾栗は無理やり胃に流し込んだのだ。 甘いものは嫌いじゃない。むしろ好きな方だが……これは甘すぎる。 何が入ってるんだ! 砂糖?コーヒー?ミルクも入ってるだろうが…これは普通のコーヒー用のミルクじゃないぞと思う。 一方、菊池は断った時の角松の残念そうな顔を見て決意した。 絶対に飲めるようになってやる! 「よし」 菊池が意を決したように呟いてそれを口に注ぐ。 「ぐっ」 が、しかし――――――口に入れた瞬間、カッと目を見 開き、うっと口を押さえた。 「ま、雅行!」 大丈夫か!と尾栗がオロオロと背中を擦る。 「吐きたいなら吐け。俺が許す」 尾栗はそう言ってテーブルに置いてあった紙ナプキンを束で取り、菊池に差し出した。 しかし、菊池は首を横に振って拒絶する。 「ん」 それからゴクンと無理やり飲み込んで、ハアっと息をついた。 「大丈夫か」 涙目になっている菊池に尾栗は同情する。 菊池は声もなく頷くと、潤んだ瞳でカップを見つめ、小さな声で呟いた。 「強敵だ」 愛する角松作、特製コーヒーを飲むための菊池の試練は続く。
|