【手】
「綺麗な手だな」 胸の所で組んだ手を見て滝が言った。
「とても軍人の手とは思えない」
見舞いに来ていきなり何を言い出すんだこの男は…そう思いながら菊池は滝を睨み付けた。
麻生の誤射により、入院してからすでに二日が経過している。
その間、毎日のように見舞いに訪れる滝にどうしたものかと思っていたのだが……。
本当に何と突然言い出すんだかと菊池は思った。
同時に同じことを言った男を思い出す。
『雅行の手は綺麗だな』
あいつにそう言われた時は嬉しかったのだが、今のこの状況下で「手が綺麗」だと言われても馬鹿にされているとしか感じられない。
自分は軍人には相応しくないと罵りたいのだろうか。
「そういう訳ではないが、軍人の手はもっと荒れてゴツゴツとしている」
滝はそう言うと菊池の手を取った。
「それに指も白く、節もさほど太くないし荒れてもいない」
「そ、それは……」
確かにCIC勤務の自分は手が航海課の連中に比べたら荒れるようなことははるかにすくない。だが指の細さや白さ、長さなどは生まれつきのものだ。
ずっとCICに居て作業を全くしていないのではない。
学生時代も皆と同じように訓練した。
それでもあまりゴツゴツとした手にはならなかったから、これはもうどうしようもないのだろうと思っていた。
手が綺麗だと良く褒められる。
だけどそれは同じくらい嘲笑されていることでもあった。
「軍人の手がこんなに綺麗だなんて……」
では、どうすれば良いと言うのか?
いっそ切り落として義手にでも挿げ替えるか?
だがそれには高いリスクがついてくる。
ムカムカと競りあがってくるものに菊池は眉を寄せながら、滝の手を振り払う。
すると滝は不思議そうな顔で菊池を見つめた。
「何を怒っている」
「別に怒ってなどいない」
そう言う菊池の眉間にはハッキリと皴が三本刻まれている。
本人が思っているほどポーカーフェイスではないと滝は思い嬉しくなった。
「言っておくが褒めているのだぞ」
「どの辺りが褒めているのだ」
菊池の眉間の皴の溝が益々深くなっていく。
「軍人で手が綺麗だと喜ぶ男がいるのか?」とそう言うと滝は苦笑いを浮かべた。
「喜んで良いと思うぞ」
綺麗な手。
この手で直に人を殺めたことなどないだろう。
自分の筋張った無骨な手とは違うと滝は思った。
「馬鹿な…」
菊池が苦笑いを浮かべる。
「見た目が綺麗でも、この手は汚れている」
ただ直に人を殺めていないだけ。自分の判断で簡単に人が死ぬ様を幾度も見た。もう汚れていないとは言えない。
「それでお前はどうするんだ」と滝に問われても何も答えられなかった。
助かった命。助けた角松のことを思うと胸が痛む。
不意に滝が菊池の手に口付けた。
「滝…」
「また、会おう」
そう言って病室を後にする。
なんともほろ苦い思いに胸が痛む。今後の自分の立場がどうあれ滝とはこの後も関っていくことになるだろう。滝が触れた手を天井に翳し菊池はため息を漏らした。
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すみません。なんか微妙なものになってしまいましたが・・・
リハビリ中ということでご容赦下さいませ。ぼんやり菊池って手の
形とか指とかすごく綺麗だろうなって思っただけなんです。
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